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異世界で『黒の癒し手』って呼ばれています

※書籍版1巻第三章 148ページ
 コルテアでの初めての買い物

第一部

第28話 街をぶらつこう


 ――まあ、こんなことになるんじゃないかな、とは思ってたんだよ。

 一番先に買わなきゃいけないのは冒険者として必要なものだよね。
 うん。じゅうぶん承知だ。

 だけどさ。

 着のみ着のまま、なのよ。魔法で汚れないようにしているけど、ずっと同じ服着てるのよ、夜中も。次の日もその次の日も。
 ありえないよ。オシャレ好きな女子大生としてありえないよ。

 だからちょっとお金を手に入れちゃったら……もう我慢が出来なかったのだ。
 そんな私を責めないでほしい。

 まあ、つまり、なんだよ。

 先に洋服を買っちゃいましたってことさ。うん。

 服屋、といってもブティックみたいなキレイなものじゃなくて、入口にテントみたいな幌が店先に張り出していて、そこに台が置かれてて、その上に乱雑に服が重ねておいてある。

 値段も銅10くらいから銀数枚まで、さまざまだった。
 もっと高いものは上流ゾーンに行きなって言われたけど、私にはここにあるものでじゅうぶんだ。

 まずどうしても欲しかったのが下着。

 日本で履いているような小さなものはなくて、かぼちゃパンツを長くしたようなやつだった。
 ドロワーズというのだそうだ。
 これってあれだよ。不思議の国のアリスが着てたやつだよ。3分丈くらいの長さで、すその少し上でヒモでくしゃっと絞られているからすそがひらひらっとしてるやつ。
 アリスのはひざ下くらいだったけど、3分丈からひざ下まで、いろいろあった。

 可愛いんだけど、これが一番下に履くもの? この下には何も履かないの? ええ? 今まで見ていたアリスちゃんの絵はスカートからパンツが見えてたってこと?
 お店の人にこの下には何も履かないんですかって聞いたら当然な顔をされた。

 仕方がない。これを着て、どうしても心もとないと思ったら布地を買って自分でショーツを作ろう。ゴムがないけど横をヒモにしたら案外簡単に出来る気がしてきた。裁縫なんて高校の被服の授業以来だけど。

 ブラみたいなものはなくて、かわりにドロワーズと共布で出来たキャミがあった。

 揃いで着たらすんごく可愛い!(試着はしてないよ。並べてみただけ)
 もう気分はアリスちゃんよ。時計を持ったウサギが飛んでこないのが不思議なくらいさ。

 お値段はドロワーズ銅45枚。
 キャミソール銅55枚。

 はっ、あわせて銀1枚。1万もする。ううう、でも諦められない。そして1枚じゃ我慢できない。でもお金は足りなくなる。
 泣く泣く1セットで我慢。お金ができたらもっと買うぞ! 最低あと2セットは買うぞ。

 残金。銀貨13枚と銅貨97枚。

 んでさ。
 ここでは買い物をしても袋に入れてくれたりしないんだよね。日本って過剰包装天国だからさ。紙に包んで箱に入れてその上から紙袋までいれてくれるじゃん。ハダカでドロワーズをぽんと渡されてきょとんとしちゃったよ。

 お店の人が見ている前でアイテムボックスにしまうわけにはいかないし、だからといって肌着を手に持ち歩くなんて嫌だ。
 それにこれからは荷物を持って移動しなくちゃいけなかったりするからね。冒険者としても使えそうなカバンも買っておこう。

 旅に使いやすいのはこれだと言われたカバンは、縦に筒状になった大き目のカバンで、日本で武道をやっている人とかが道着をいれているカバンみたいな形だった。
 背中に背負うこともできるし、肩から掛けることも出来る。上にヒモとか金具がついていて、ここに毛布をくくりつけたり、ロープやランタンとかをぶら下げたりするんだそうだ。うん。使いやすそう。 銅65枚。

 残金。銀貨13枚と銅貨32枚。

 さて。洋服だ。着たきりスズメから脱却だ。

 こちらの人は背が高い。女性も170くらいが普通サイズみたいで、160ちょっとの私は小さいほうみたいだった。
 と言っても洋服がないわけじゃない。

 もともといろんなサイズを作っていないんだと思う。みんな身体にぴったりした服じゃなくて要所要所をヒモで結んで調整するような服が多くて、いろんな体型の人が同じ服を着られるようになっている。私が着ても十分着られるものが多い。
 (当然だけど貴族は別だよ。フルオーダーメイドだからね。)

 洋服は値段もばらばらだけど、肌にあたるとごわごわする布地のものは安く、ちょっと手触りがいいなと思ったらみんな銀以上だった。

 キャミとドロワーズがあるから直接肌に触れるものじゃないからある程度は我慢するけどね。

 冒険者だからズボンっぽいものが欲しかったんだけど、女性がズボンを履くのはおかしいらしい。
 動きやすいものが欲しいというと勧められたのが布地をたっぷりとったロングのキュロットスカートだった。

 うん、これなら馬にも乗りやすいし、動きやすい。見た目はロングスカートみたいだし。
 それにあわせて開襟シャツを1着。

 開襟シャツ 銀1枚
 ロングキュロット 銀2枚

 ベルト 銅70枚
 キュロットのウエストがぶかぶかなんだよ。ひもで縛るようになっているけどベルトあるといいからね。

 それにこれは剣や巾着なんかをぶら下げる穴とか金具がついていて使いやすそうだったから。人前でアイテムボックスを使えないんだからこういうものは必要だからね。

 着替えが欲しいからもうひとつ。

 ロングワンピース 銀2枚

 服はもっとほしいなあ。キュロットとワンピースの2着だけってのは女の子としては悲しすぎるよね。
 もうちょっと買いたい。ああ、お金できたらきっと買う。

 それから次は。
 パジャマも欲しいな。パジャマらしいものはないから、大き目のだぼっとしたTシャツみたいなものを買った。私が着ると膝丈くらいになる。これをパジャマ代わりにしよう。
 銅80枚。

 フード付きのマントも欲しかった。私が着ると踝くらいまであって、フードもゆったりしているマントがあってすごく欲しかったんだけど銀5枚もしたからこれは我慢。これもお金たまったら絶対買うぞ。

 残金。銀貨6枚と銅貨82枚。

 今履いているブーツは暑い。もう少し短いのがほしい。

 ショートブーツ 銀1枚と銅30枚
 靴下はゴムがないから足袋みたいなもののうえに広い布がついていて、それをふくらはぎに巻き付けて先の紐で結ぶような形だった。脚あてというのだそうだ。 銅10枚。
 これも1着じゃ足りないから今度いくつか追加で買おう。

 残金。銀貨5枚と銅貨42枚。

 あとは、
 タオル代わりの大判の布地 銅15枚
 お財布がわりの巾着 銅10枚
 日々の手荷物とかそんな感じの薄手の布バック 銅10枚

 こちらに来たときに強くなったのか、肌も髪もこんなアウトドアな生活しているのにちっとも痛んでないし、日焼けもしていない。
 まあ元々化粧だって薄いほうだったし。何を使っているか判らないこちらの化粧品をつける勇気もない。だから化粧品はいらないんだけど、やっぱりくしとか鏡とかは欲しいよ。
 異世界来てから自分の顔みてないから、私。

 鏡欲しかった。でも銀2枚とか5枚とかした。
 鏡の高さにびっくりだよ。しかもあんまりキレイに映らないし。貴族のところにはちゃんとした鏡があるらしいけど高いんだって。

 ちょっと鏡だけでこの値段は買えない。次回買うリストの一番上にいれておこう。とりあえず櫛だけ買う。

 くし 銅5枚

 残金。銀貨5枚と銅貨2枚。

 

 武器屋さんをちらっと覗いてみたけど、剣は銀50枚とか金1枚とかとんでもなく高かった。
 安い武器は魔力が籠らないから魔剣なんかを使うには高い剣を買う必要があるんだって。

 私は武器は使わないけど、切り取ったりとかそういう作業はいるからね。安いやつでいいからナイフは買おう。
 細かい作業がしやすそうな、刃が10センチくらいの小刀を一つ買う。皮の鞘つき。銅45枚。

 残金。銀貨4枚と銅貨57枚。

 私が魔術師でよかった。
 魔術師って杖もったりするのかな。でもカミヤズルの討伐隊にいた魔術師も杖とか持っていなかったと思う。あんまり覚えてないけど。

 武器屋のおじさんに魔術師は武器はもたないものなのかと聞くと、指輪や腕輪に魔力を込めたものを取り付けた魔道具をつけている人が多いのだそうだ。
 他にも防具になる指輪などもあるんだって。

 どんなものがあるかと見せてほしいというと、それは武器屋じゃなくて魔道具屋に行けと言われた。

 いろいろ説明してもらったのに銅45枚のナイフだけでごめんね。おじさん。

 魔道具屋さんには指輪や腕輪がいろいろあった。
 どれも高い高い。むりむり。

 お金が出来たら買おう。

 他にも冒険者が使う魔道具を見せてもらった。
 魔石を使ったランタン。うーん。『ライト』があるからいらないや。
 火つけ石。これも『ファイア』でいいよね。
 飯ごうセット。あ、これは欲しいかも。野営するとき買おう。今はまだいらないや。野営するときに買いにこよう。

 まあそんなところかな。
 魔道具屋のおじさんにお礼を言って店をでる。いっぱい説明してもらったのに何も買わなかったや。

 あとは防具屋さんで少し防具をみた。

 魔術師のローブは魔法防御が高いものが多いらしいけど、どれも高かった。
 皮の鎧くらいはいるかもだけど、当面はいらない。
 どうせ下っ端冒険者から始めるんだしね。

 

 いろんなお店を見て回って私の残金。銀貨4枚と銅貨57枚。
 これが私の全財産だ。

 ひと月分宿屋代と食事代を払っておいてよかった。
 宿屋にさえ帰ればご飯は食べられる。

 このお金は大事につかわなきゃ。

 ……ちょっと使いすぎたね。
 反省してるよ。ほんとだよ。だから「見通しの甘い子だ」とか思わないで。

 食費も生活費ももう払ってあるからひと月で5万円近くのお小遣いがあるって感じじゃない?
 やだなあ、貯金だってこれからちゃんとするよ。いつかコルテアを出て行くんだから。
 それにさ。冒険者の依頼報酬って、だいたいすぐ貰えるじゃん。だから大丈夫だよ。

 

 ……いいわけしているのは買いすぎたって自分でも判っているからなのさ。

 だって。初めての自由時間なんだもん。

 ああ、でも買い物するのってホントに楽しいね!
 いままでの疲れとか、考えなきゃいけない事とか、ぜんぶ吹き飛ぶくらい楽しい。

 

リィーンお小遣い帳(持ち金銀貨25枚)
項目 支出 残金
「赤い長靴亭」宿屋代 銀10   銀15  
ククル   銅 2 銀14 銅98
ケチャ   銅 1 銀14 銅97
ドロワーズ&キャミソール 銀 1   銀13 銅97
カバン   銅65 銀13 銅32
開襟シャツ 銀 1   銀12 銅32
ロングキュロット 銀 2   銀10 銅32
ベルト   銅70 銀 9 銅62
ロングワンピース 銀 2   銀 7 銅62
パジャマ代わりのTシャツ   銅80 銀 6 銅82
ショートブーツ 銀 1 銅30 銀 5 銅52
脚あて   銅10 銀 5 銅42
タオル代わりの大判の布地   銅15 銀 5 銅27
お財布がわりの巾着   銅10 銀 5 銅17
薄手の布バッグ   銅10 銀 5 銅 7
くし   銅 5 銀 5 銅 2
ナイフ   銅45 銀 4 銅57

 

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