異世界で『黒の癒し手』って呼ばれています
グランマチスへの視察の旅、2日目の野営地、テント内でのガールズトークです。
幕間です。
少し下世話な話もしています。苦手な方はスルーの方向でお願いします。
読まなくてもストーリーにまったく影響はありません。
第一部
幕間 第47.5話 ガールズトーク
グランマチスへの視察の旅、2日目のテントの中では、少し慣れた3人と異世界に来て初めてのガールズトークができた。
これよ、これ。こういう時間がなくっちゃね。女の子にとって萌えはパワーなのよ。
「やっぱり『赤獅子』や『氷の貴公子』は人気があるの?」
「もちろんですわ。あの男ぶり。精悍なお姿のりりしさ、美しさ。青騎士で、しかも師団長と副師団長。その上まだ独身ですのよ」
コルテアは国境近い街だから危険も多いのだ。
いつギューゼルバーンが攻めてくるかわからないんだからね。
青騎士は王都の騎士だから、うまく騎士と仲良くなって結婚ということになれば、いずれ王都で暮らせることになる。
そんな打算もありありで青騎士人気は高いらしい。
「ええ、シアンさまのあの氷の微笑み。どんな姫さま相手でも冷え冷えとした表情できっぱり誘いを断るんですの。その冷たさがまたいいのですわ」
「マリアンヌは本当に『氷の貴公子』びいきね」
「あらわたくしだけではなくってよ。『氷の貴公子』が仲間うちでごくたまに見せる微笑みをこっそり横から覗き見た女性はみな『氷の貴公子』を狙っていますとも」
「うん、あの笑顔は素敵だものね」
「リィーン様はもうご覧になりましたのね」
「うん、じつはね……」
「まあ、カミヤズルで? なんて素晴らしいんでしょう。ああ、わたくしも拝見したかったです」
「うん、破壊力あるものね。あの笑顔」
しばし、マリアンヌさんとシアンさんの笑顔について熱く語ってしまった。かくしてマリアンヌさんと私の中で『シアンさん笑顔フェチ同盟』が結成されたのだった。
「ヴァンさんも人気なんだね。わかる気がするなあ。頼れるお兄ちゃんだもんね」
「『赤獅子』は次期青騎士団長ともっぱらのうわさでございますから」
「青騎士の中でも特に強く、勇猛果敢。武勲は数知れず。それでもそんなところをちっとも鼻にかけない気安さも素敵ですものね」
「それに20年前に亡くなった奥様をまだ想ってらっしゃるところも評価が高いのですわ」
「そうですわ。そのお心の隙間をわたくしが埋めて差し上げたい。って」
「リィーン様はヴァン様とシアン様ととてもご昵懇の様子ですが、実際のところ、どうなんですの?」
「どうなんですのもなにも、ヴァンさんはお兄ちゃんでシアンさんはお母さんだよ。ふたりともめちゃくちゃかっこいいし、頼りになるけど。恋人とかそんなのはないよね」
「なんてもったいないことを。リィーン様はお好きな殿方はいらっしゃらないのですか?」
「ええ? いないよ。いまはもう自分のことで精いっぱいでさ」
「まあリィーン様ってどなたとも普通に接してらっしゃるけど、特にお好きな方がいらっしゃるようには見えませんわね」
「そうですわ! 今日乗馬の練習をなさっていた時、シアンさまに腰を抱かれて馬に乗せてもらってらしたじゃありませんか。あんなこと、他の女性にしているところなど見たことがございませんわよ」
「ほんとうに。リィーン様は『赤獅子』や『氷の貴公子』の特別なんですわよ」
「ええ。それが恋愛感情であろうとなんであろうと。特別なことには変わりはありませんわ」
「コルテアの女性すべてが憧れる青騎士のこんなに近くに居ながら、なんて出会いの無駄遣いを」
「そうですわ。よろしいですか、リィーンさま。
騎士は貴族の嫡子ではありませんから領地を継ぐことはございません。ですがそのかわり、王都にずっといられますし、青騎士は王都の正規騎士団ですのよ。権威もすばらしいものですわ」
「ええ、素晴らしいお買い得物件なんですのよ」
「特に『赤獅子』『氷の貴公子』は青騎士人気騎士トップ3の第1位と2位ですのよ」
「うわっ。なにその気になる話。ちなみに第3位はどなた?」
「リィーンさまはご存じないかもしれませんが、第6師団の師団長『無魔の騎士』ですわ」
「無魔?」
「ええ。本当は無魔ではないのですが、魔力が3等級しかないのです。ですがとても魔力の質が高いことと剣技にすぐれてらっしゃることで、若干32歳にして第6師団長の座に上り詰めた猛者ですわ」
無魔、というのはまったく魔力のない人。1等級の人の事を指す言葉なんだそうだ。
騎士は3等級以上の人がなるけど、師団長ともなればもっと魔力が必要になってくる。なのに3等級しかない彼がその座を勝ち取った。
「無魔」という言葉は差別的な言葉だけど、彼の称号『無魔の騎士』は反対にそれを賞賛する言葉として使われている。
『無魔の騎士』の活躍で魔力の低い人でも努力と技術次第で上に行けるのだと希望を持った人も多かったのだ。
「『無魔の騎士』はご婦人方との噂も一番多い方なんですのよ」
「ええ、まさに来る者は拒まず、去る者は追わず」
「3等級ですから寿命が短こうございますものね。きっと生き急いでらっしゃるのよ」
「ああ、そういう刹那的なところもまた素敵ですわよね」
「リィーン様もお気をつけくださいませね。『無魔の騎士』がリィーン様を見れば出会ってすぐ口説いていらっしゃるに決まってますわ」
「ええ? 判った。気をつける。じゃあみんなも『無魔の騎士』がいいって思っているの?」
「一時の恋を探しているなら『無魔の騎士』は最適ですわ。地位も名誉もあり、姿かたちもりりしく、恋人でいる間は情熱的に愛を語ってくれて、しかも後腐れなく別れられる」
「え? 別れるの前提?」
「『無魔の騎士』がまったく結婚を考えていらっしゃらないのですわ」
「それにわたくし達も3等級ですわよ。3等級同士が結婚しても子供に高い魔力は望めませんから」
「そうですわね。子供が3等級では出世が見込めませんもの。やはり5等級のヴァンさまやシアンさまをなんとしても捕まえたい、と侍女たちはみんな思っていますわ」
「しかもあれだけの美丈夫ですもの」
「そうですわね。彼らは娼婦たちの人気もすごいですものね」
「ええっ!!!!」
「いやですわ。リィーン様ったら。戦いのあとの殿方は血が騒ぐものですわよ。夜のお店に行ってらっしゃるにきまってるじゃありませんか」
「え? そうなの。シアンさんやヴァンさんも? うそお。やだあ」
「ええ。もちろんですわ。中流ゾーンの北の奥はそういう飲み屋やなんかの歓楽街で、その手のお店が奥にたくさんありますわ」
「青騎士たちはギューゼルバーンの脅威のためにこちらにいらしたのですからね。ほんとうは貴族の娘と恋愛ざたになるヒマはないのでしょうね」
「ですからてっとりばやくそういったお店で情熱を発散させてらっしゃるのよ」
「そうですわね。その手のお店でもやはり赤獅子は人気なんですってよ。夜の赤獅子もとっても獅子なんですって」
「まあ、いやですわ。セリアったら」
「氷の貴公子も娼婦たちが競いあって刃傷ざたになったこともあるとか」
「無魔の騎士は○×▼△で……」
うわあ、赤裸々すぎる。
「コルテアの貴族達は、リィーン様の事は殿下が大切になさっていると思ってらっしゃいましてよ」
「いずれご側室にというお話も」
「ええ?! なにそれ。ないない。ないよ。みじんもないよ」
「そうですわね。おふたりの様子を拝見していてもちっともそういった空気がありませんものね」
「ちなみにレオン殿下って結婚しているの?」
「まあもちろん正妃さまはいらっしゃいますわよ」
「ええ、カテリーナ妃はオルト・ファン・デル・ベリチェ公爵さまの一の姫ですわ。
ベリチェ公爵さまは北の国境側の一帯を治めてらっしゃる方ですの」
「北側は王家の直轄領に近いのにあまり現王との関係がよくありませんでしたものね。
このご成婚でレオン殿下の北の守りが盤石になりましたもの」
「うーん。それはそれは絵にかいたようなすばらしい政略結婚だね」
「もちろんですわ。王族に愛情での婚姻などあるはずがございませんわ」
「ですからご側室がおありになるのですわ」
「そうですわね」
「はあ、側室もいっぱいいるの?」
「ベアトリーチェ姫は宰相閣下のお孫さまでしたわね」
「ええ。宰相閣下は王弟殿下にかなり肩入れなさっていたと聞きますけど今はそんな話聞かなくなりましたわね」
「あらこれも政略でしたわ」
レオン殿下の下半身事情は、下半身も理性で動くと言う事が判りました。
「なんかもう皆すごいね。じゃあジンさんは?」
「『カリトベの癒し手』はミュゼット侯爵家のご嫡男ですのよ。本来でしたらいまごろはミュゼット侯爵となられていらっしゃったのに、弟にその座を譲り、癒し手として生きる道を選ばれたのですわ」
「ミュゼット侯爵家の領地は肥沃でとても栄えていますわ。そのうえ海に近くて真珠の産地でもありますの」
「あの方もまだご結婚はされてらっしゃらないのよね」
「あら、マリアベル嬢が猛烈なアプローチをしかけてらしたじゃありませんか。ほらランメルチェ男爵家の」
「そうでしたわね。でもあの方、最初は『氷の貴公子』狙いじゃありませんでしたこと?」
「きっぱりさっぱり断られたからですわ」
それからマリアベル嬢の、ハンカチをわざと落としてシアンさんに拾わせたとか、シアンさんが通る時間にあわせて必ず現れるとかそういうベタで判りやすいアプローチの話が続いた。
っていうか侍女たちの情報網すごすぎる。
「リィーン様、青騎士がいかに優良物件ばかりか、ご理解いただけましたかしら」
はあ、ご理解いたしましたけどさあ。
すごいわ。こっちのガールズトーク。
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